あなたも紙飛行機を折ってみては?

27点の答案用紙
今月の社内成績表
受け取って貰えかったラヴレター
書き損じた数枚の小説
などなど・・・
嫌なことみーんな紙飛行機にして空へ飛ばしてしまおう
空ほど広い懐をもったところはない
少なくとも私はそう想った。

2010年6月12日土曜日

忘れられた風物詩


「忘れられた風物詩」
空乃友人
 電車が河を渡るための高架橋の下に、川沿いを歩ける歩道がある。
 そこは夜になると街灯の光が届かず、不気味で深い影を生み出している。
 私はそこを通らなければ、帰ることができないのだ。そこは、暴漢や悪漢が立ち回れるほどの広さは無いのだが、人一人が通路を占領することが可能なぐらい狭い。
「よう、にいちゃん。おいらと相撲とろうか」
 顔の目は真っ黒な真珠を思わす目玉に、唇の変わりに嘴と妙ないでたちの、コスプレをした怪しい人物が通路を占領していた。
 第一こんなところで相撲なんてとったら、頭をぶつけてしまうではないか。こいつは安全性の配慮というのを知らないのだろうか。
「ここを通りたきゃおいらと相撲して勝ってみろよ。そしたら通してやる」
 なんと傲慢な考えの持ち主なんだ。公共の道路を占領しておきながら言う台詞ではない。
 しかし、こんなことをいちいち警察に通報しても相手にされないだろう。困ったものだ。
「ところで、あんたは驚いて逃げ出さないのか」
 驚くとは、どうゆうことだろうか。そりゃ道を占領して相撲とろうなどと言われれば、少しは驚くが逃げ出すほどのものではない。
 先にここを通ろうとした者は皆驚いて逃げてしまったのだろうか。
「考えていてもこの道は通れないぜ」
 そんなことは分っているのだが、見てのとおり骨に少々の肉が付いたような私が相撲などで勝てる確率はないのだ。
「どうして相撲なんだね」
「そんなこと聞くまでもないだろうさ。おいら達の得意競技だからな」
 なんとこの奇妙な輩には、仲間がいるというのか。まったくこの頃は平和すぎて、本当にボケたことをかます人が、増えてしまったようだ。
「早くしねぇか。皿の水が乾いてしまうでねぇか」
 皿の水がどうしたというのだろう。皿などどこにも見受けられないのだが。
 しかし、この焦りようからみて、何か不都合なことがあるのだろう。もう少し時間を稼いで様子を見よう。
「ところで私の他に何人ここを通ったかね」
「おいらが道を塞いでからあんたが始めてだ」
 赤信号に捕まったときより、性質が悪いものに引っ掛ってしまったようだ。
「ここで相撲なんてとったら頭を打ってしまう。ここより開けた場所でなら相撲とってやってもいいんだが」
「嫌だね。ここでないとあんた逃げるだろ。せっかくここまで来たんだから、あいつらに見つかる前にさっさととってくれ」
「あいつらとは誰だね? それと君は追われているのかい」
「なんでもケイサツという所属している奴らがうるさいんだ」
「君は警察におわれているのか。やっぱり何か犯したのか」
「あんたらの生活に介入したとかなんとか言って、強制送還されてしまうんだ」
「ああ、君は外国からやってきたのから、そんな奇妙な服装をしているんだね。やっと分かったような気がするよ」
「外国? 奇妙な服装? あんたもしかしておいらのこと……」
 信じられないというばかりに嘴が開いていく。なにか間違ったことを言ってしまったのだろうか。
 凍ったように固まる奇妙な二人組みを、溶かしたのは黒尽くめの女性であった。
 猫の足音のように二人の間に割り込んできて、奇妙な輩にすんなりと手錠をかけてしまった。それから私の方へ向きなおし懐から警察手帳を突き出した。
「生活安全課の黒音です。逮捕協力ありがとうございました」
「いえ、協力なんて滅相もない。ところでそいつは、不法入国かなにかで捕まったんですか」
「あ、喋りましたか。それは困ったことになりましたね」
 狭い額に指を当てて、少々悩んだ末に警察手帳と反対側の懐から携帯電話を取り出して、どこかに掛けだしたのいいことに、コスプレ紛いの外国人が声をかけてきた。
「に、にいちゃん。おいらのことホントは分かってたんだよな?」
 分かるも何も不法入国のいろいろと哀れな外国人なんだろう。それ以外検討が付かない。
「どこの国から来たかは知らないけど、きっと希望を捨てなかったらなんとかなるからさ。がんばれ」
「ちがう、ちがう、そう言うことじゃない。おいらが河童だってことだよ」
 言い切ると共に刑事さんの電話も終わったようだ。それにしても河童か……外国にも知れ渡っていたんだな。
 その後、黒音と名乗る刑事さんから二、三ほど質問があったが問題なしと見られ早々に帰ってよいこととなった。
 河童と名乗る外国人は、最後まで河童だと言っていたのが痛々しかったが、とりあいず信じといてやることにしておいた
がこの世界には河童は居らず、両生類で人間に近い哺乳類なのは、カモノハシぐらいである。
 まったく、さびしい世界だ。